2004年06月03日

夜の果てまで

 また、少年犯罪だ。今度は少女犯罪だが。

 6月1日に長崎県佐世保市で起きた、小学6年生が同級生をカッターで切りつけ、死亡させた事件だ。

asahi.com : ニュース特集 : 佐世保女児死亡
 長崎・佐世保で安倍氏講演、教育基本法改正の必要性強調 (06/01 20:15)

 おいおい、違うだろ。教育が大切なのは当然だし、その教育が変な方向に進んでいるのは確かだが、それが教育基本法改正につながるか?

 そんなことを思いながらニュースを見ていて、ふと思い出した。このところずっとレポートしている佐野眞一「だれが「本」を殺すのか (下巻)」のなかの一節だ。

だが管見では、この本がベストセラー化した一番の要因は、ひとえにそのタイトルの絶妙さにある。
「世界の」「中心で」「愛を」「さけぶ」と並べられれば、わざわざ本を開いて「読む」必要はなくなる。意地悪くいうなら、この本は日本人の「読む力」の衰退現象に実に巧妙につけこんでいる。

――「だれが「本」を殺すのか (下巻)」

 ちょっと違うと思う。が、半分はあたっているだろうなあ。なぜ、ちょっと違うと思うかは、この本のタイトルを見たときに感じたある種の違和感だ。
 実は、ぼくはこの本を読んでいないから何ともいえないのだが、タイトルだけでいえば、そのタイトルを見たときに、どこかで見たという既視感があった。いや、最初に書店で見たときは、どこかのテレビドラマのノベライズかと思った。

 ところが、ずっと気になっていたこのタイトルを、ある日、当の書店で発見した。ハヤカワ文庫で出ている「世界の中心で愛を叫んだけもの」だ。
 奥付を見ると、1979年1月の発行だから、「世界の中心で愛をさけぶ」(2001年3月)の20年以上も前になる。こちらの原題は「The Beast that shouted Love at The Heart of The World」だから、そのまんまだ。

 で、この「世界の中心で愛をさけぶけもの」が、そのタイトルだけで日本人の読む力の衰退現象につけ込んでいるかというと、そんなことはないわけで。まあ、20年前といえば状況があまりに違うから。

 しかし、どちらにしてもぼくは脅威的なベストセラーとなった「世界の……」を読んでいないわけだが、Amazonなんかで見ると実にひどい「評価」がなされている。
 曰く、「読んでてすごく恥ずかしくなりました」「ごめんなさい、ムリです」「タイトルに惹かれて買ってみましたが、全くの駄作でした」……。
 これだけ酷く書かれていると、逆にそれほどのものなら読んでみるかな、などとつい思ってしまいそうだが、しかしカスタマー・レビューが558本も書かれているというのは、それだけ読まれているという証拠でもあるわけで。

 だから、タイトルが「日本人の読む力の衰退現象に実に巧妙につけこんでいる」とは思えないわけだ。日本人好みの単語を並べた、とは言えるけど。

夜の果てまで しかし、「世界の……」のような恋愛ものを読むくらいなら、もっと上質な恋愛小説を読んだほうがいい。たとえば、「夜の果てまで」(盛田隆二/角川文庫)のような。

 それにしても、日本人の読む力の衰退現象というのは、たぶん着実に進行しているんだろう。その原因の一端が、教育にあるのは確実で、それが先のような事件の遠因にもなると推測されるわけだ。教育基本法を改正したくらいで、教育が良くなり、その結果「読む力」の衰退現象に歯止めがかかる、などとはとても思えない。

 盛田隆二は、90年に「ストリート・チルドレン」でデビュー。それまでに第2回ニッポン放送青春文芸賞佳作や第2回早稲田文学新人賞入選などもがあるが、デビュー作は「ストリート・チルドレン」だ。これは講談社から発売され、第12回野間文芸新人賞候補にもなったが、いまでは手に入らない。

 その「ストリート・チルドレン」が、2003年10月に新風舎文庫から復刻された。
 新風舎というのは、いわゆる自費出版系の出版社だが、「ストリート・チルドレン」が入っている新風舎文庫のデビュー作シリーズというのは、読者の要望によって復刻されたものだ。
ストリート・チルドレン
 野間文芸新人賞候補となり、しかもかなり評判の高かった本書が、発刊後わずか10年でなかなか手に入らず、他社から文庫化されなければならないという出版状況こそ、読者と出版との乖離を如実に物語っている。それを考えれば、読者の読む力は、憂慮するほどには衰えていないのではないかと思える。

 しかし、「夜の果てまで」は、もとは「湾岸ラプソディ」というタイトルだった小説を改題している。というか、これは「月刊カドカワ」に連載されていたものを加筆したのだが、連載中のタイトルが「夜の果てまで」で、単行本化するときに「湾岸ラプソディ」に改題し、さらに文庫化にともなって再び「夜の果てまで」に戻した、というのが正解だ。
 すでに「湾岸ラプソディ」を読んだ方は、「夜の果てまで」は同じ作品なんで注意。

投稿者 kazumi : 2004年06月03日 05:38

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