プーケット・タイ5日間の旅
Part.1(1/3)


タイ(1)


96/8/16(Fri)
 明け方5時まで仕事をしていて、1時間ほど仮眠。新宿7時発の成田エクスプレスに乗るためには、6時に起きてしたくをしなければならないのだ。息子たちを起こし、牛乳を飲ませて出かける。
 成田エクスプレスが、成田空港第2ビルに到着したのは8時30分。いつもは成田まで行くのだが、今回はJALだったため空港第2ビルまで。
 空港でツアーの窓口まで行って荷物をあずけ、チケットをもらってレストランで食事。銀行窓口に行き、5万円ほどバーツに換金する。タイははじめてなのだ。
 JL717便が成田を飛び立ったのは、11時を少しすぎてから。これから約6時間でバンコクに着く。


 タイ国際空港、ドン・ムアン空港に到着したのは、もう夕方の5時だった。ここからまだプーケットまで1時間10分ほど飛行機に乗らなければならない。空港から出ると、ムッとする熱気。これがウワサに聞くタイの熱風だ。とにかく暑い。いや、熱い。
 国内線の発着するゲートまでクルマで行くから、少し待ってくれと、ガイドが怪しい日本語で言う。待合室に入ると、そこはまさにアジアの人種の坩堝。韓国人が大挙してイスに座り、早口でまくしたてている。その向こうに、インド人らしきターバンを巻いた背の高い家族連れ。そして中国人。その間を、タイ人やマレー人が行き交う。そんな光景を見ているだけで、まったく飽きない。
「すぐクルマ来るから」
 といい終えてから、30分以上も待っただろうか。これがタイ時間なのだ。平気で1時間くらい遅れる。小1時間ほどして、やっとクルマがやってきて、そのまま国内線発着ゲートへ。ここからタイ航空TG6221便でプーケットへ飛ぶ。

 プーケットに到着したのは7時前。
「ワタシ、アリです」
 と、ガイドが名乗る。タイの遊び人ふうのガイドだ。プーケットに到着したのは、3グループ。バンに同乗して、それぞれのホテルに向う。クルマの窓から、ときどき屋台の喧燥が見える。男も女も、子どもも老人も、裸電球がいくつもともる屋台の下で、楽しそうに食事をしていた。ときどき、2人乗りのバイクが、クルマを追い抜いていく。バイクが異様に多いのだ。2人乗りは当然。ときには3人乗り、4人乗りまでいる。荷台を引き、そこに家族5人ほどが乗っているバイクまである。
「バイクは何人まで乗れるの?」
「バイク、2人乗りまでね。それ以上は違反。でも、3人乗りもいるよ」
 とアリ。

 宿泊先のダイヤモンド・クリフ・リゾートに着いたときには、すでに8時をまわっていた。いいホテルだ。リゾート地の、別荘をおもわせる造り。ロビーで説明を聞いてから、部屋へ。部屋までかなり急坂になっているのだが、そこを専用カートで送り迎えしてくれる。
 山の傾斜を利用してつくられたこのホテルは、いくつかの棟が並び、それぞれ3階建て程度の大きさになっている。続きのデラックスツインが2部屋。中間のドアを開けて、息子たちがはしゃぐ。息子たちはホテル慣れしてしまって、部屋に入るとまずトイレ、バスを点検し、冷蔵庫をのぞき、テレビをつける。そしてエアコンを調節。
 カーテンを開けると、広いバルコニー。その先には、アンダマン海が一望に見渡せる。部屋のデスクに、ホテルからといってフルーツバスケットが置かれていた。バナナやマンゴ、マンゴスティンにまざって、見たことのない果物もある。

タイ(2)  夕食を食べにいこうと誘うが、朝早かったためか、皆ちょっと疲れぎみのようだ。時差が2時間。日本時間でいえば夜中の10時すぎになる。飛行機のなかで出た軽食のためか、お腹もあまりすいていないようだ。
 ぼくは夜中にコーヒーが飲みたいのと、朝までもちそうもないからといって、ルームサービスを頼むことにした。サンドイッチにピラフ、それにピザとコーヒーだ。
 ただし、これまたタイ時間。それから1時間半ほどもかかって、やっとルームサービスが届いた。届いたときには、息子たちは半分寝てる状態だった。それを起こして、ピザとピラフを食べさせる。なかなかの味。
 アンダマン海の波音が、静かに聞こえる。こうして1日目、プーケットの夜がふけていった。



96/8/17(Sat)
タイ(3)  息子たちの声で目覚める。カーテンが半分開けられ、アンダマン海の上空が見える。が、どんよりと曇っている。
 エアコンが効いているためか、暑くはない。プーケット2日目がはじまった。
 予定はない。いつもそうだが、うちは何の予定も立てず、ただ面白そうなところにちょっと顔を出し、そしてたいていはホテルのプールや海岸でゆっくりと過ごすのが、ここ数年の夏のバケーションの過し方になっている。
 とりあえず顔を洗い、朝食を食べに行くことにする。ホテルの案内を見ると、プールサイドに朝食の食べられるレストランがあるそうだ。
 空気を入れ替えようとバルコニーを開けると、きれいに咲いた真っ赤な花に、これまた色鮮やかな蝶々がとまっていた。
 部屋からレストランまで、下り坂を歩く。昨夜は気がつかなかったが、部屋のある棟の入り口に、警備員が立っている。その前がロビーになっていて、日本語新聞や週刊誌なども置かれていた。
 警備員がカートを呼ぼうかといってくれたが、歩くことにする。トンボが飛びまわり、美しい鳥がバナナの実をつついていた。
 ロビーを抜け、中庭のプールをまわって、Ocean View Coffeeshopへ。バイキング形式の朝食だ。といっても、もうすぐ11時になろうとしている。どこに行ってもそうなのだが、ここにも日本食がある。今朝の日本食は、蕎麦、ご飯、そして味噌汁。ぼくはフレンチトーストとサラダ、それに豊富なフルーツとコーヒー。
 1時間ほどゆっくり時間をかけて食事をし、部屋に戻る。どうも空が怪しい。タイはいま雨季なのだ。ときおり小粒の雨が降る。レストランから望むアンダマン海の上空も、黒い雲におおわれている。
「雨季ですから、海が荒れてるんです」
 昨夜のアリの話だ。オプションはどうですかと、いろいろなところに誘われ、そのついでに出た話である。
「昨日も日本人が溺れました。この時期、海に入るのは禁止ね」
「波が荒いんですか?」
「波、荒いけど、1時間くらいで別の島行けるね。そこなら泳げます」
 プーケットで、海に入るのが禁止されているなどとは知らなかった。こんなに暑いのに、海に入れないのはきつい。
 そんな話を思い出しながらプールを見ると、欧米人が水に浸かっている。プールサイドにはバスケットボールのリングもある。曇っているというのに、パラソルを立てて本を読んでいる年配の女性もいる。
 食事がすむと、うちもプールに入ろうということになった。雨季だからって、まさかプールで溺れるはずもない。部屋に戻り、水着にきがえて再びプールへ。

タイ(4)  水は、それほど冷たくはなかった。雨がふりそうで降らない。息子たちはそんなことにもおかまいなしに、元気に泳いでいた。プールの向こうに、山が見える。深い木々におおわれた山だ。ホテルのあちこちで見られる鳥も、あのへんからときどき舞い降りてくるのか。
 1時間ほど寝そべっていたら、かなり大粒の雨がふってきた。たまらず、プールサイドの屋根の下に入る。ここはちょっとした食事ができるよう、テーブルも置いてある。ここで昼食。
 そのうちに少し晴間がのぞいてきたので、またプールに戻る。バスケットゴールにボールを入れたり、滑り台を下りたり、息子たちは次々と遊びを生み出していく。
 やっと出た太陽とばかり、プールサイドで肌を焼く。その夜、かない痛い目にあうのだが、いまはまだ知らない。
タイ(5)  2時間ほど日に当たり、天候も落ち着いてきたようなので、浜辺に出てみようかということになる。いったん部屋に戻ってシャワーを浴び、着替えて浜辺へ。途中、ホテルの白壁に、透明なイモリのような生物がはりついていた。猫が、それこそあちこちにいる。
 ホテルの前がちょっとした大通り。ここをクルマやバイクが、ほとんど80キロほどものスピードで行き交っている。もちろん信号などない。見通しも、それほどよくないというのに、なんたる運転か。
 それもよくわかっているのだろう。ホテル前に交番があり、道路を渡るためだけに警官が出てきて、クルマの切れ目を見つけて渡らせてくれるのだ。これには驚いた。
 浜辺に下りると、磯の香りがツンと鼻にくる。白茶色の砂。そして岩場。変な形の魚やカニを見つけては、息子たちが嬌声をあげている。
 しばらく浜辺を探索していると、何やら怪しげなタイ人が近づいてくる。もちろん、タイ語などわかろうはずもない。
「どこから来た?」
 小柄なその男が、日本語で聞いてきた。
「日本。東京」
「トウキョね。トウキョ、人いっぱいね」
「はは」
「ぼく、いいもの持ってる」
「?」
「これね」
 男は小さな菓子箱程度のブリキの箱を出した。
「これ、ホンモノ」
 と言うと、紅いルビーの石を取り出す。小さな石だが、もう片方からガラスを取り出し、そのルビーでガラスを切って見せるのだ。
「ほー」
 驚いていると、男がいう。
「安くするね。もっと大きい石もあるね」
 タイの特産品に、ルビーやサファイアなどがある。といって、こんな浜辺で売りつけられるとは思ってもみなかった。適当にあしらうが、どうも怖い。深入りする前に息子を連れて、ホテルに戻る。

 ホテルのロビー脇にあるコーヒーショップで休む。生バンド、といってもマレーシアからきた4人ほどの楽隊が、なぜかビートルズなどを奏でている。注文をとりにきた女性が、とびきりの美人。コーヒーのお代わりと、クッキーまで注文してしまった。
 夕食は、ホテル内の日本料理屋「Kiko」に行く。他のホテルから、わざわざタクシーで来たという日本人。そのわりには、なぜか味はいまいち。
 こうして、プーケット2日目も、なにもせずに終わってしまったのだった。(Part.2へ)

タイ(7)




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