[新版]平成テクニカルライター養成講座

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技術評論社「The BASIC」連載
平成
テクニカルライター
養成講座
Text by Kazumi Takei

 



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今月のお題
第4回(97年4月号)
失敗しない
企画書の書き方


ータスコープでメールチェック

 2月20日の午前中に家を出て、新宿西口の電気街でショップを5件駆け回り、やっと京セラのデータスコープ(DS-110)をゲットした。
 去年の夏の終わりに発表され、その後2回発売が延期され、やっと2月20日に発売となったいわくつきのPHSだ。前日の19日に1000台入荷して、それが全部売り切れちゃいましてね、と鼻息の荒いショップもあったほど。5件目の店で、最後の1台ですというやつをひったくるようにして手中にしたのだ。

 なにをいまさらPHS、と思うかもしれない。が、これがなかなか面白いのだ。このPHS1台で、パソコン通信の電子メールなどがテキストで受信できるのである。
 これまで出先などで電子メールを読もうと思ったら、携帯端末とモデムカード、それにPHSや携帯電話などが必要だった。公衆電話でって手もあるが、とても周りの目が気になって、ゆっくりアクセスするような気にはなれない。

 携帯端末には、これまでヒューレットパッカード社のHP100LX、HP200LX、IBMのPC110などを使っていたが、どうも面倒なのだ。さりとて、センターの音声サービスを利用したこともあるが、あのコンピュータ合成音というのがどうも嫌で、しかも融通がきかないから、いつの間にか利用しなくなってしまった。
 そこに出てきたのが、テキストメールが受信できるPHS。購入して家に帰り、NIFTY-Serveにアクセス。いとも簡単に電子メールが受信できてしまった。
 いや、メールだけじゃない。ホームパーティーやフォーラムの電子会議なども、ターミナルモードで簡単に読むことができる。これならチャットだってできるだろう。ぼくはやる気はないけど。

 付属のスクリプトを書き換えて、ホームパーティーや電子会議の未読メッセージを自動的に受信するスクリプトを書き、これも動かしてみた。大成功。これで喫茶店だろうが駅のホームだろうが、はたまた街角だろうがホテルだろうが、いつでも好きなところで電子メールのチェックができちゃうし、おまけに電子会議のメッセージだって読めちゃう。

 どうしてそんなに電子メールが気になるのかって? テクニカルライターの仕事は、もはや電子メールなしでは考えられないところまできているからなのだ。
 たとえば、どこかの編集者がぼくの書いた本を見て、連絡をとりたいとき。いま、もっとも多いのが電子メールである。もちろん、電話がかかってきて顔を合わせてってケースも少なくない。が、実際に見知らぬ人に電話をかけるよりも、メールアドレスがわかっていれば電子メールを出したほうが、気が楽なのだろう。時間帯を気にする必要もない。

 ライターなんて、どうせ夜中に原稿を書き、昼間は打ち合せや取材で外出していることも多い。つかまえにくいのだ。その点でも、電子メールのほうが便利だろう。
 ぼくが初めて電子メールで仕事の依頼を受けたのは、NIFTY-Serveが始まってすぐの1987年のことだった。大阪の出版社だったが、電話をかけてきたりわざわざ会いにくるよりも、電子メールのほうがずっと便利だったのだろう。結局、最後まで編集者と顔を合せずに、原稿をやはり電子メールで送って仕事は終了した。

 いまから思えば、けっこう画期的なシステムで仕事をしたものだ。が、いまではこのスタイルが、ほとんど常識となってしまった感さえある。
 ライターにとって、電子メールは実に便利な機能だ。たとえば、企画書を送る。打ち合せをする。書いた原稿を送る。添付する画像や、ときには写真さえ電子メールで送る。原稿料は、もちろん電子メールじゃ送れないが、テクニカルライターの仕事の多くが、いまでは電子メールを活用しているのである。
 そしてこの電子メールは、いや、電子メールを含むパソコン通信は、駆け出しライターの絶好の売り込みの場所にもなるのである。これについてはまた別の機会に詳しく説明しよう。

画書に必要な要素

 ところで、企画書である。
 前述したように、すでにぼくは企画書のほとんどを、電子メールで送ってしまう。いや、実際には企画そのものは電話や顔を合わせたときに伝えたり、また雑談中にふと思いついたことがそのまま実現することも多い。企画書など、実はここ2、3年、書いたことがないのだ。
 書いたことはないが、企画書に準ずるものは書く。プロットだ。これは、ライターが書いている本の内容を、編集者が把握するためのもの。そして出版社の営業や広告のためにも必要なものだ。

 先月号で、企画書のさわりについて説明した。タイトルと趣旨である。ちょっと復習してみよう。
 まず、企画書には本のタイトルを書く。これは仮りタイトル。出版社の方針、あるいは編集者の好みというものも大きいから、とくにタイトルに凝る必要はない。凝ったタイトルをつけてみても、出版時に変更されてがっかりすることも多いだろう。
 趣旨は、いわば見合写真に添える釣り書きのようなものだと述べた。美辞麗句を連ね、その本が面白い内容でぜったいに売れる、と強調してもいい。この趣旨で、言葉は悪いが、編集者をダマすわけだ。ダマすという言い方が悪ければ、ノセルと言い換えてもいい。どっちでも同じ。結局のところ、編集者の目をひき、興味を持たせるのである。
 と、ここまでは先月号での話。今月は、この趣旨のあとに何を書くのかを説明しよう。
 企画書に必要な要素には、次のようなものがある。

 ・タイトル
 ・著者・著者略歴
 ・趣旨
 ・プロット
 ・判型、ページ数、価格、その他

 この要素のなかには、省けるものもある。何度もいっしょに仕事をした編集者に出す企画書なら、著者略歴なんていうのは不要だ。
 あるいは、出版社には出版する本の方針というものがある。ソフトの解説書を文庫サイズで出したいなどといっても、それが通る出版社と不可能な出版社とがある。また、A5版の500ページの解説書を、380円で出しましょうなどと提案しても、原価計算をすればぜったいにできないことはわかりきっている。


 つまり、こういうことは事前にちょっとその出版社の出している出版物を見れば、だいたいわかることなのだ。また、出版企画ではこれらの要素は、出版社が決めることなのだ。だからこのへんは、ごく常識的な指定でいいだろう。
 もちろん、それを売りにする本もある。A5版やB5版の解説書が多いなかで、ぜひ新書サイズでやりたい、といった企画だってあるだろう。判型、ページ数、価格、それにフロッピーディスクを添付するのかCD-ROMを添付するのかといった点は、企画の内容に左右されるものなのである。そして、CD-ROMやフロッピーを添付すれば、その分本の価格が上がるのも当然のことだ。

 企画書のなかでもっとも重要なのが、プロットである。プロットといってわからなければ、本の目次だと思っていただければいい。
 ただし、本の目次ではあるが、単純に中見出しを並べただけではダメ。詳しい章立てを書き、その各章でどのような内容を解説するか、これを具体的に表現したのがプロットである。

 プロットを作成するためには、まず全体の章立てを決める。どのような内容を解説し、なにを盛り込むかを考え、たとえば全体を2部構成にして、それぞれを5章立てにするとか、あるいは全体を6章立てにして、中見出しを細かくつけるといった具合だ。
 これらは取り上げるテーマや内容、解説方法などによっても異ってくる。いや、実は実際に原稿を書くライターによっても異ってくるはずだ。また、企画を立てたライターによっても異る。
 つまり、同じソフトの解説書でも、あるいはハードの解説書であっても、それらは原稿を書くライターによってすべて異ってくるはずなのだ。それがライターの個性にもつながっている。

 テクニカルライターの必要な能力のひとつに、構成力がある。この構成力が、企画書のプロットを書くときに発揮されるし、もちろん原稿を書くときにも発揮される。構成力のないライターなど、しょせんただの便利屋にすぎないと心得ておくべきだろう。

ロットは移りゆくもの!?

 では、実際に企画書のプロットを作ってみよう。
 たとえば、この連載で実際に本を作ってしまおうと目論んでいるWindowsCEのプロットを作ってみよう。

 まず、この本では具体的にカシオのCASSIOPEIAを操作しながら、WindowsCEについて解説する。ただし、CASSIOPEIAのユーザーだけでなく、他のメーカーのWindowsCEマシンのユーザーでも活用できるような内容とする。だから最初に、WindowsCEについて解説しよう。
 さらに、CASSIOPEIAのハードについても少しだけ説明する。手元にマシンを持たないユーザーでも、本を読むだけでなんとなく使っているような気分になったほうがいい。また、この原稿を書いている時点では、まだ英語版のCASSIOPEIAしか市販されていないが、実際には日本語版のCASSIOPEIAを中心に解説する。

 ただし、英語版のCASSIOPEIAのユーザーもいるから、付録程度で英語版CASSIOPEIAの操作、英語版WindowsCEの操作、それに便利なフリーソフトウェアやシェアウェアについても紹介するといいだろう。
 そう考えると、まずおおざっぱに全体を3分する。WindowsCE部、CASSIOPEIA部、英語版CASSIOPEIA部の3つだ。つまり、こんな具合になる。

 Part.1 WindowsCE
 Part.2 CASSIOPEIA
 Part.3 英語版CASSIOPEIA

 ただしWindowsCEそのものは、実際にマシンを操作することで解説することになる。つまり操作の流れからいえば、最初にマシンの簡単な説明をし、WindowsCEや添付されているアプリケーションが使える状態にまでもっていく必要があるのだ。
 テクニカルライターが書くハードやソフトの解説書だからといって、これらのものを単純に端からひとつひとつ解説していけばいい、というものではない。読者がどう操作するか、その操作のためにはどういう順番で解説されているのがわかりやすいか、それをまっ先に考えるべきなのだ。
 これらのことを踏まえれば、まずマシンについての解説が必要になる。ただし、導入部は別だ。WindowsCEは、まったく新しいOSだと考えていい。また、なぜいまごろになってWindowsCEが出てきたのか、その意義も前面に出すべきだろう。
 そこで本書を、次のような構成に組み替える。

 Part.1 WindowsCEがやってきた
  WindowsCEの登場と、その意義。WindowsCEマシンの活用法など
 Part.2 CASSIOPEIAでWindowsCEに入門
  CASSIOPEIAの基本操作と、付属アプリケーションのインストールなど
 Part.3 WindowsCEアプリを使いこなす
  WindowsCEに添付されている基本アプリケーションの操作法の解説
 Part.4 デスクトップマシンとの連携
  CASSIOPEIAとデスクトップマシンとの連携法と、CASSIOPEIA独自の添付アプリケーションの操作・利用法の解説
 Part.5 英語版CASSIOPEIAを日本語で使う
  英語版のCASSIOPEIAの操作と、オンラインソフトの紹介

 だいぶ構成が変わっただろう。これらの各章の中身を考えていくうちに、さらに構成が変わる可能性もある。
 いや、実際には原稿を書いているうちに、構成が大きく変更されることだってあるのだ。これは実際に原稿を書いてみるまでわからない。構成が変わらないほうが珍しいと思ったほうがいい。

 よく編集者のなかに、原稿を書く前に細かな部分までプロットを決めてしまう人がいる。“台割り”といって、何ページにはどんな内容がきて、どんな小見出しをつけるか、といったページ単位のプロットを作成するのだ。
 もともとこれは、雑誌の作り方からきている。何ページに扉がきて、次の何ページから何ページまではどんな記事をおき、ここには何を入れるのか、といったことをページ単位で管理するわけだ。雑誌作りでは必ず行うもの。

 ただし、これを単行本に応用するのは厳しい。ビジュアルが中心となる解説書では、こんな方法も有効、いやこの方法に大きなメリットがあるが、文章を中心として画面を配置するような多くの解説書では、台割りを細かく作れば作るほど、全体の構成が歪んでくることが多い。少なくとも台割りにしばられて、不要な部分の説明が長くなったり、重要な部分の解説が端折られてしまう可能性もある。つまり、書いてみるまでページにどんな内容がくるのかなんて、正直なところ誰にもわからないのだ。
 こうしておおざっぱな章立てを決めたら、今度は各章の中身の構成を考える。基本的には、たとえば全体で200ページ程度の本を作るなら、各ページに1つ、または見開き2ページに最低1つの小見出しが立つような構成にする。全体で100〜200の小見出しだ。

 読者は、小説やエッセイを読んでいるのではない。ソフトの、あるいはハードの解説書を手にとっているのだ。端から端まで読んで、はじめて納得するような構成ではダメなのだ。どのページから開いても、それが1ページか2ページほどで完結しており、それだけで操作が進められる、といった構成にすべきなのだ。
 各小見出しごとに、あるいは各章ごとでもいいが、どんな内容を盛り込むかを簡潔に付記しておくこと。小見出しだけでは、企画書を渡された人にはわからない点も多い。それを補足するような、内容の解説を書いておくわけである。
 こうして作成したプロットは、次のようなものになった。こんな感じで、1冊まるごとのプロットと解説を書いておくのである。

績なければ企画で勝負

 作成した企画書には、見本原稿も添付しておくといいだろう。
 見本原稿というのは、文字どおり本の内容の一部を抜粋した見本の原稿だ。1ページか2ページ分、あるいは小見出し1本分の原稿をつけておくといい。また原稿だけでなく、そのページに入る画像なども入れておくといいだろう。
 理想をいえば、見開き2ページ分の原稿や画像を、本の出来上がりイメージのままに出力し、これを添付するのがいい。

 この見本原稿によって、文章は「ですます」調で書かれるのか「である」調で書かれるのか、画像の配分はどの程度なのかといったことがわかる。また、文書が多いのか、画像が多くてビジュアルなのか、といったこともわかる。さらに、文章は初心者向けなのかパワーユーザー向けなのか、箇条書き部分がどの程度あるのか、中見出しや小見出しがどの程度の頻度で出てくるのか、といったこともわかるだろう。
 いや、それらのことがより具体的に把握できそうな見本原稿を添付すべきなのだ。だから理想としては、前述したように本の出来上がりイメージのままの、ページの出力が望ましいのである。

 といっても、実際にはここまでやるライターは、そう多くはない。こんなことをしなくても、通る企画は通るし、通らない企画は何をやっても通らない。
 また、よく知っている編集者に提出する企画書なのか、まったくの未知の編集者、あるいははじめて仕事をする編集者なのか、といった点によっても企画書の体裁は異ってくる。まったく初めて、しかもコネもなく、実績もそれほどないライターなら、全力で企画書を作成するべきだろう。

 企画書を作成するということは、そのテーマで解説書を書きたい、単行本を書きたいという表明だ。編集者が提出してきた企画ではない。ライター側が、「こんな企画で自分の本を書きたい」という、強固な意志表明なのだ。
 だとすれば、絶対に通る完璧な企画書を作成すべきなのだ。いいかげんな企画書を見せられたら、いいかげんな原稿しか書けないヤツ、と編集者に思われてしまうだろう。  広告コピー、わずか10文字程度の広告コピーを作るのに、一流のコピーライターは積み上げると10センチほどにもなる企画書を書くという。

 あなたが書こうとしているのは、1行のキャッチコピーではない。約25万字にもおよぼうかという200ページほどの単行本なのだ。その単行本の企画書に、全力投球したっていいではないか。そして、きちんとした完璧な企画書を作成すれば、実は原稿を書く段階でおおいに役立つものでもあるのだ。

 さて、こうして作成した企画書を、ではどこにどうやって持っていき、誰に見せたらいいのか?
 そうなのだ。駆け出しライターにとって、これが最大の悩みのタネだろう。コネもない、知り合いもいない、実績もないライター。ただ、面白い企画があり、この原稿を書いて本を出そうという情熱だけはあふれるほどあるライター。そんなあなたは、どうやってコネを作ればいいのか、どうやって企画を売り込めばいいのか、それがわからずに悶々としているのではないだろうか。
 そんなことをいうと、あっさりと、
「出版社に送ればいい」
 などとアドバイスするライターがいる。もちろん有効な手段ではある。が、賢い選択ではない。
「やっぱりコネよ。コネがなかったら、どんな企画も実現しないよ」
 これまたしたり顔に言い放つライターもいる。そして、「ライターだってサービス業。営業で決まるんだぜ」
 信用してはいけない。ウソばっかりだ。営業? そんなもの、筆者はここ10年ほどしたことがない。営業なんかしなくても、断りきれないほど仕事がまわってくるのだ。

 というわけで、来月はライターの営業、企画の売り込みかた、そしてコネの作り方といったことについて書いてみよう。初心者ライターが悶々の日々にさよならするための、秘伝だ。





今月のお題

 2月号のお題は、“World Wide Web”について初心者にもわかるよう説明せよというものだった。2回目だというのに、実に多くの方からご応募があった。力試しをしようとか、ライターとしてどんなもんだろう、といった方もいて、回答の中身は実に興味深かった。

「World Wide Web」とは、いまや毎日の新聞でそのキーワードが出てこない日がないといえるほど、流行でもあり重要でもあるインターネット関係の言葉だ。
 本書の読者でなくても、ほとんどの人がどこかで目にしている、いわば現代のキーワードのひとつ。ところが、いざ初心者に簡単に説明しようと思うと、これまた骨のおれるキーワードだ。

 というのも、World Wide Web(WWW)について説明するためには、インターネットについても簡単に説明する必要がある。そしてインターネットを説明するためには、それこそ1冊の本が書けるほどの内容なのだ。

 これをうまくまとめてしまったのが、増田弘実さんの次の回答である。

「インターネットの中の一部分で,文書や音声,画像,動画などを扱うことのできる情報検索サービスのこと」
 実はこの前に、ちょっとした前フリがあり、英語としてWWWを翻訳したときどうなるかも書かれていたのだが、その部分はあまりわかりやすいものではなかった。結論として書かれていた上の一節が、ごくごく簡単なWWWの説明としては、まずまずのものだろう。現代用語の基礎知識とか、広辞苑あたりならこれでもいいかもしれない。

 ただし、やはりテクニカルライターとしては、これでは及第点とはいえないだろう。無論、「簡単に」というのがミソで、どこまで簡単に書けばいいのかを示していないため、書きにくいことはたしかなのだが、読者層を自分なりに明確に想定して、解説を書くのも練習というものだ。

 読者層を想定し、2通りの回答を寄せてくれたのは、倉光君郎さんだ。まず、一般初心者ユーザー向け。

「ネットスケープナビゲータを作った学生たちって今では、30億円くらいの資産家なんだって。え? ネットスケープを知らない? 最近、大流行のWorld Wid eWebを閲覧するソフトだよ。Webってマウス片手にインターネット中を旅できてホワイトハウスからヨーロッパの学生の書いたページ、あそうそう朝日新聞も読むことができるんだ。最近は、インターネット上のショッピングの実験も行われているくらいで全く新しいメディアだね。とりあえず、物は試しだ、使ってみなよ」
 そして、大学の先生に提出するレポートなら、こんな具合だ。

「World Wide Webとは、CERNのTimらが開発した広域分散情報検索システムである。ハイパーテキスト構造を用いて、インターネット上のリソースをシームレスに閲覧できるようにした点が新しい。HTTPと呼ばれるシンプルなプロトコルとHTMLという記述言語によって構成される。今日、NCSA Mosaicから派生したビジュアルブラウザの登場によって文章だけでなく、マルチメディアデータの閲覧も可能になり、EC、イントラネット、グループ ウエア等のキーテクノロジーとして展開していくことが予想される。最大の課題は、プロトコルがステートレスな点で如何に状態を持たせるかが研究の鍵のひとつである」
 一般ユーザー向けのものは、WWWは面白いということだけを伝え、そのためにはブラウザを利用するのだという情報を盛り込んだそうだ。
 インターネットやWWWを説明する記事のなかの、その一部として書かれるのなら、こんな書き方も有効だろう。ただ解説としては、先生に提出するもののほうがそれなりにわかりやすい。もちろん粗削りだし、出てくる用語をきちんと解説していく必要もあるが。
 初心者向けというと、すぐに細かい部分や難しい部分を省き、面白おかしく解説しようとするライターがいるが、実はパソコン初心者のレベルを甘くみないほうがいい。
 いや、そもそも“パソコン初心者”というものは、幻想でしかないと心得ておくべきだろう。パソコンは使いはじめたばかりだが、大型コンピュータをもう10年もいじっている、なんていうユーザーだっているのだ。会社で表計算ソフトやワープロソフトをばりばり使っているが、通信はまったくやったことがない、なんていうユーザーもいる。

 実は今回のお題の回答には、熊さん八っつぁんの落語オチでまとめたものがいくつかあった。田中英敏さんの回答や川崎真さんの回答だ。難しい話を、笑い話や落語ふうにまとめるというのは、実はよく使う手。また、掛け合いの会話だけで説明するというのも、やはり同じような手だ。

 パソコンの解説書のなかには、初心者向けにマンガを利用したものがある。発想としてはこれに近い。「初心者」「簡単」「面白く」となると、すぐにマンガだの落語だの、あるいは会話だのと発想するのだろう。が、これはやめたほうがいい。
 ものごとを表現するには、それをわかりやすく表現するための手段というものがある。マンガには、文章では表現できないものがある。逆に、文章にはマンガでは表現できない部分がある。「簡単」「面白い」=マンガ、落語。これは短絡でしかない。こういうもの、つまりマンガだの落語だの会話だのというのは、うまく使えばものすごい効果を上げるものなのだが、まずは文章できちんと表現することに挑戦してみることをお勧めする。
 その上で、どの部分ならマンガを使うと効果的なのか、どの部分で会話を入れると効果的なのかをよく吟味し、もっとも効果の高いところでド〜ンと使うのだ。

 逆にいえば、だから会話や落語やマンガを使うのは、難しいのである。使い方を間違えると、読者はナメられていると感じてしまうことだってある。
 “パソコン初心者”などというのは幻想である、といったのも同じ。正しく、きっちりと解説することが、まず重要なのだ。そのためには、ライターもまた常に勉強を続けるしかないだろう。

 では、今月のお題。


「あなたがいま書いてみたいアプリケーション解説書の、簡単な企画書を作成せよ」


 なお、回答は封書または(
ここ)でどしどし御応募ください。また、面白くてタイムリーな企画が寄せられれば、これを単行本化してもいいと思っている。ほんとうにやる気があれば、出版社をご紹介するから、本気の回答をお待ちしている。

[目次]

Copywrigth (C) 1997 by Kazumi Takei. All Rights Reserved.