2009年07月13日

「フェイク・ゲーム」(阿川大樹)を読む

 新宿・歌舞伎町の女ふたり。ひとりは海外勤務の両親のもと、中国社会を転々として育った高岡麗美――リーメイ。日本人でありながら、中国人として歌舞伎町の女王にのし上がった女。
 ひとりは中国で育ち、日本に留学してきて歌舞伎町でビジネスを始めようとするリン・シャメイ――西山律子。中国人でありながら、日本人として歌舞伎町で自分の才覚だけでのし上がろうとする女。

 育ちも境遇も、そして国籍さえ異なる2人の女がクロスしたとき、歌舞伎町のアンダーグラウンドの社会が大きく揺れはじめる。

フェイク・ゲーム
フェイク・ゲーム
阿川 大樹
徳間書店
1,890円
ISBN:4198627290
2009/05発売
在庫あり。

 歌舞伎町を舞台とした、阿川大樹さんのフェイク・ゲーム(徳間書店 / ISBN:4198627290)を読みました。

 覇権の標的(ターゲット)(ダイヤモンド社)、D列車でいこう(徳間書店)とビジネス色の強い、いわば経済小説を書いてきた阿川さんが、歌舞伎町を舞台に書いた異色経済ノワールともいえる小説です。

 日本一の歓楽街である歌舞伎町には、射精産業ともいえるさまざまなビジネスが渦巻いています。キャバクラ、ソープ、マッサージ、クラブ、エステ、居酒屋……、これらの欲望に忠実な、だからこそ危険と知りつつ人々を引き寄せる街には、アイデアと才覚で新しいビジネスが次々と展開されています。
 ただし、欲望に忠実だからこそ、そこにはアンダーグラウンドの組織も関与しています。六本木から新宿に移ったリーメイは、ヤクザの資本をバックに歌舞伎町で次々と新しいビジネスを展開していきます。
 一方、居酒屋やマーサージ店などの仕事をかけ持ちしていたシャメイは、あるとき簡単に偽の日本国籍を手に入れる方法を見つけ、やがてそれをビジネスに発展させていきます。

 この前半部分の新しいビジネスのアイデアや展開方法などは、まさに阿川さんの真骨頂ともいえる部分でしょう。目新しさそのものはありませんが、緻密なビジネス展開にワクワク引っ張られていきます。

 この2人の女がクロスしたときから、まったく新しい展開が始まりますが、それは読んでみてのお楽しみ。リーメイにも、シャメイにも、それぞれ異なる魅力があふれていて、どちらも捨てがたい。その間をうろうろする準主人公の比嘉翔太に、羨ましささえ感じます。

 ところで、リーメイが歌舞伎町に移ってくるとき属したのが、黄亮文の光洋グループですが、これはもともと戦後すぐに黄の父親が靖国通り裏に開いた「内藤食堂」が母体になったという設定ですが、これはちょっと。
 歌舞伎町の成り立ちや、戦後の混乱期、あるいはその後の暴力団(ヤクザ)の支配などについては、たとえば歌舞伎町・ヤバさの真相 (溝口 敦 / 文春新書)などを見ると一目瞭然です。もちろん、本書に書かれていることがすべてではないでしょうが、歌舞伎町を少しでもかじっていると、どうも「内藤食堂」から中国系組織が生まれてくるという話に、あまりリアリティが感じられません。これをリアルに感じられるような書き込みが、ちょっと足りないのではないか、と思うのです。

 ただし、もちろんそれによって本書の面白味が損なわれることは、まったくありません。ビジネス、ノワール、サスペンスなどの要素が絡み合い、逆に分類しにくい小説ですが、新しいビジネス小説として楽しめます。
 阿川さんは、これまでのビジネス小説を突き抜けた題材や設定から、独自の世界を小説にする特異な作家です。次作でもぜひ、新しい舞台で考えもつかなかったビジネス小説を読ませてほしいものです。

歌舞伎町・ヤバさの真相 (文春新書)
歌舞伎町・ヤバさの真相 (文春新書)
溝口 敦
文藝春秋
809円
ISBN:4166607057
2009/06発売
在庫あり。

投稿者 kazumi : 2009年07月13日 20:28 | トラックバック |


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