昨年、「覇権の標的(ターゲット)」でダイヤモンド社の第2回ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞を受賞した阿川大樹さんの新刊です。前作はシリコンバレーを舞台にしたベンチャー企業の立ち上げを描いた本格的ビジネス小説だったのに対し、今回は田舎の廃線寸前の鉄道を再建する話。
D列車でいこう
阿川 大樹
徳間書店
1,785円
ISBN:4198623295
元銀行支店長、銀行員でMBA取得の才色兼備の銀行ウーマン、鉄道マニアの元官僚――この3人で田舎の廃線寸前の鉄道を再建する。
工学系の研究者になるつもりが銀行に就職し、下町の支店長までいきながら、傍系企業の役員へ出向を命じられた河原崎慎平。総合職で入社したものの、女子行員という理由だけでキャリアパスに乗れなかったため、自力でMBAを取得してしまった深田由希。元官僚で、いまは2億円の金を持ちながら鉄道写真を趣味とする田中博。この3人が、廃線が決まった山花鉄道の再建に乗り出した。会社名は「ドリームトレイン」。
鉄道を黒字にするためには、乗客を増やすしかない。観光資源をもたないどこにでもある田舎に、客を呼ぶためにはどうしたらいいのか。ここから3人の破天荒なアイデアが爆発していきます。
団塊の世代とそのちょっと下、そして30歳の才女が考えだしたアイデアは、これまでの鉄道経営には決して上がってこなかったチャレンジです。ただし、それだけ敵も多い。静かに廃線を迎えようとしている町長兼山花鉄道社長や、体面と保身だけで動こうとしない国交省。しかし、そんな3人に感化されたのか、村の人々や村を離れた若者などが少しずつ変化し、3人を応援してくれるようになります。
ローカル線を再建しようとする3人が、ドリームトレイン以前と比べてどんどん元気になっていくのがわかります。その元気が、読む側にも影響するのか、読んでいるうちにこちらも元気になってきます。
前作のビジネス&サスペンスに比べ、今回はビジネス色はそれほど強くないながらも、やはりプロジェクトXを見ているようなビジネスの面白さも描かれています。しかも、彼らの出すアイデアが、ヲタクやネットにも通じていて、これがまたいかにも現代的です。
著者には、もっとビジネス色の強い小説を書いて欲しいと思わせるものがありますが、軽めで、しかも元気の出る小説が読みたいというなら、うってつけの1冊です。