2004年11月13日

ネット王子とケータイ姫

ネット王子とケータイ姫―悲劇を防ぐための知恵 なかなか面白い本だった。今年6月に起きた佐世保の女児同級生殺害事件のあと、何冊かネットと子どもの関係、あるいはネットを安全に利用する方法などに関する本が出版されている。
 そのなかでも、子どもとインターネット、さらにはケータイについて、その危険性とどう付き合っていけばいいかを解説したのが、「ネット王子とケータイ姫―悲劇を防ぐための知恵」(香山リカ・森健/中公新書ラクレ)である。

 精神科医の香山リカ氏と、ジャーナリストの森健氏が、それぞれの得意分野で子どもとインターネット、子どもとケータイの現実を取材し、検証し、そしてこれらの機器をどう扱っていくことで、佐世保の悲劇を防ぐことにつながるかを提言している。

 当然ながら、ここには学校教育のなかでのインターネット教育、あるいはもっと言えばメディア・リタラシーについての批判も出てくる。
 すでに報道されている話だが、2003年度末でネットなどITの「操作ができる」公立教員は、全体の93%にもなるのに、ITを活用して「授業ができる」教員は60.3%。情報教育で国や教育委員会の研修を受けた小学校の教員は20.9%で、民間企業主催の研修では2.8%しかいない。
 呆れてしまうのは、それほど問題となっているインターネットやケータイとの付き合い方を、子どもたちに教える立場の当の教師が、「僕らはあまり必要ないからね」という理由で、携帯電話を持っていない教師さえいるというのだ。
 それって、速く走ったり、長く走るなんてことは必要ないからと、体育の授業から短距離走やマラソンを省いたりするのと同じではないか。将来、まったく使わないことのほうが多いからといって、微分や積分を教えなかったりするのと同じだ。
 この危機感のなさには、驚きを通りこして呆れてしまう。

 もちろん、すべてを学校教育に任せようなんて思わないし、それでいいとも思わない。家庭内での教育や子どもとの接し方のほうが重要なのだろうが、それのできない親のほうが多そうなのだ。ネット王子とケータイ姫を語る前に、親の教育が必要になっているのである。

インターネット安全活用術 もう1冊、こちらはもっと技術的なことに踏み込んだ専門書。「インターネット安全活用術」(石田晴久/岩波新書)も発売されている。
 こちらは親向け、それもインターネットに関する正しい知識をそれなりに持つ大人向けというべきだろう。スパイウェアやP2P、それに企業におけるセキュリティ対策といった話題のなかに、プライバシー保護の方法やフィルタリングソフトや、メールのプロパティの設定など具体的な話まで出てくる。

 かつて、もう20年近く前になるが、ぼくらが初めてパソコン通信を使い、掲示板にメッセージを書き込み、チャットに明け暮れた時期がある。いまならネット依存症寸前といえるほど熱中したものだ。いま噴出しているような現象や問題は、当時すでに表面化していた。
 ただ、参加者のほとんどが大人だったため、それを回避する智恵があったのだろう。当時の合言葉は、「ネットやらなくても死なない」だった。そう言い聞かせて、中毒寸前でなんとか踏みこたえていたのだ。

 やがてインターネットが、しかも常時接続が当たり前になり、ネットは低年齢層にまで広まった。ネットやケータイのなかにしか居場所を見いだせない子どもたちが、どんどん産み出されている。「ネットやケータイがなくても、死なない」などとは、もはや言えない時代になってしまったのだ。
 そんな時代に、子どもたちにどうインターネット、さらにケータイと付き合うかを、どのように教えていくか、これらの本からいくつかのヒントが見いだせるはずだ。

投稿者 kazumi : 2004年11月13日 11:10

コメント
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?