2004年07月14日

文筆生活の現場

 ライターになって、というかライターとして記事を書くようになって、すでに30年近くなる。自分の最初の著書は覚えているが、共著だったため、ほとんど自分の本という意識がなかった。
 ひとりで書いた本が出たのは、ライターになって5年くらいたってからで、それから20年ちょっとで160冊の本を書いた。まあ、「ライターです」と言ってもいいと思う。それ以外の仕事、したことないし。

文筆生活の現場―ライフワークとしてのノンフィクション そのライターの仕事を、実際のライターが描いた本が出ています。「文筆生活の現場―ライフワークとしてのノンフィクション」(石井政之編/中央公論新社・中公新書ラクレ)です。

 佐野眞一さんを筆頭に、武田徹、藤井誠二、森建、江川紹子といったライターが、なぜライターになったのか、どのように仕事をしているのか、そしてその収支を書いています。

 本の裏表紙には、次のような一文が載っています。

 最前線を走る第一人者から新人まで、総勢12名の書き手が描く「ビジネスとしての執筆業」。夢の追求と生活収入の獲得を両立すべく奮闘している彼ら。その実情と本音を克明に初公開する。

 佐野さんとは縁があって、共通の編集者の結婚式でお会いしたりもしましたが、一緒に仕事をしたことはありません。森建さんは、彼が「ヴューズ」の記者だったころ、インタビューを受けたことがあります。何のテーマだったのか、実は忘れてしまった。当時は、とにかく取材を受けることが多く、月に4、5本は取材を受け、写真を撮られ、テレビやラジオに出ていた時期で、雑誌の取材など受けても忘れてしまうんですね。
 ただ、森建という2文字の名前で、若くて活きのいい記者だったという印象が残っていました。

 この本の著者たちは、雑誌や単行本のライターですが、共通するのはノンフィクションをライフワークにしている点。
 ただ、そのノンフィクションが、いまぜんぜん熱気がなく、それにともなって仕事の場も、収入も減少してきているという問題があります。

 いや、出版界そのものが、佐野さんの言葉のように「ごろごろ死体が転がっている」という状況です。
 現在、単行本を1冊書いて得られる印税が、なんとぼくが単行本を書き出した20年ちょっと前より数段落ちているんですよね。給料が、20年たったら下がっていたなんて業界は、ちょっと他にはないんじゃないでしょうか。
 雑誌の原稿料も、ほとんど変わらない。というか、雑誌の原稿料は上下の幅が広く、一律に上がったの下がったのといった比較ができない。20年、同じ雑誌に記事を書いていたら、きっとわかるんでしょうが。ただ、感覚的にはほとんど上がっていない、という感じです。

 もちろん、仕事量は30年近くもライターをやっていれば、それなりに増えるんですが、それにも限界がある。印税が安くなったからと、1年に50冊も60冊も本が書けるわけじゃない。思いっきり全速力で走っているのに、ゴールがどんどん遠ざかっていくような、そんな脱力感があります。それがライターの現状です。

「ライフワーク」と「ライスワーク」という言葉が、本書のなかにも出てきます。ライフワークを見つめながら、ライスワークをどうするのかという現実。ライフワークだけを目指すライターには、厳しい時代です。

投稿者 kazumi : 2004年07月14日 03:18

コメント

週刊現代で書いていたころ、お世話になりました。
感謝しますとともにご冥福を祈ります。
ありがとうございました。

Posted by: 高山数生 : 2005年07月20日 16:32
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